俊寛-後日談 3

島にやって来た有王は、三日間俊寛を探し回ったとか。
え、聞き込みすれば良いって? 当時は同じ日本人でも
言葉は容易に通じなかったんですよ。ましてや島の人
なんてもはや宇宙人。通じません。
やっと見つけたのが4日目の夜でした。
大和言葉を耳にした有王は「あれ?」と思って近寄って
見ると、男女の土人が畑を耕していました。

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「ま、まさか!?」
と有王が呆然と立ちつくし二人を見ていると、それに
気付いた男性の土人が、有王の方にやって来た。二人は
じっと見つめ合い互いを認知するや再開の喜びに涙に
むせぶのでした。

でも、感動の再会もその時だけ。
有王は俊寛に都へ戻る様説得するのですが、俊寛は
既に異なる価値観の人となっていて、もはや島を出る
気はないと言う。有王は昔俊寛が住んでいた世界の人。
土人は汚らわしき未開人であり、共に生きるなど思い
も及ばない。だから俊寛が妻を紹介した時、有王には
不快感がわき起こるのをどうすることも出来なかった
んです。

どちらが悪いのでもありません。
住む世界が違うというのは、こういうことなんですね。
頭では理解していても、体や感性が受け付けないという
ことはあるんです。

有王は俊寛を説得するのを諦め、一人都に帰る決心をする。
すると俊寛が帰り際に有王に「私は死んだと言って欲しい」
と言うんですが、言葉が訛っていてはっきりと有王には聞き
取れず、おそらくそんな意味のことだろうと推測するほど
だったんですね。

中国残留孤児が日本語を忘れた様に、俊寛もまた使わなく
なった母国語を忘れて行ったのです。

帰りの船の中から、俊寛が妻や子供達とじゃれ合ってる
のを見ると、眉をひそめながらも、何故か涙が頬を
伝って流れるのでした...。

この涙の意味を、みなさんはどう思いますか?

自由というのは、誰の心の中にあるもので、気がつけば
すぐ手に届くところにあって、心を解放する為のスイッチ
さえ見つけられれば良いんだ...というのが黒子の信条。
そのために失うものは無いとも思っています。

この本のタイトルは「菊池寛 短編と戯曲」で、文芸春秋
から1988年に発行されています。

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